2016年末のことになりますが、ロンドンで1番気になっていたお鮨屋さんに伺う機会に恵まれました。
その名は THE ARAKI。東京銀座 あら輝の御主人 荒木さんが、2014年ロンドンに開いたお店です。
銀座の有名なお店で師匠に恵まれたのち、若くして自身も銀座に店を構え、ミシュラン最高評価の3つ星を獲得した荒木さん。
そんな順風満帆な道を自ら外れ、銀座のお店をたたんで海外で勝負するということで、THE ARAKIのオープンは話題を呼んでいました。
メニューはおまかせ(1人£300)のみ、カウンター9席のみ、そして面白いのが、時間厳守のルールです。18時開始の席と20時半開始の席があり、それぞれ遅刻したら入店不可とのこと。
わたしは18時の席でしたが、その時間厳守のルールの意味は、スタートとともに理解することになりました。
外観。リージェントストリートから一本入ったところにあります。
潔いシンプルなカウンター。
ここに9名が並び、ドリンクをオーダーしている間、荒木さんはカウンターの向こうでネタの用意をします。
私たちが見たのは、大きなマグロの切り身をまわりからザクザクと大量に切り落としていって、もともとの約1/4になった中心部分だけをまな板の上に残すという作業。
ゲストはまるで観客席にいるような気分でその舞台を眺めることになるわけですが、”今夜のコースにはこれだけの厳選されたネタを使用しますよ”、というメッセージに期待が高まります。
その後全てのスタッフがおもむろにカウンターの向かいに立ち、ゲストに一礼。コースのスタートです。
ロブスターとキノコの汁椀。
ここがいわゆる”純日本の鮨屋”ではないことを改めて認識するお椀です。
ロブスターもキノコも日本ではなく現地のもの。
すべてのお料理は全てのゲストにほぼ同じタイミングで供されます。
温度やネタの鮮度など、最高の状態で口に入れてもらうための、徹底したサーブでした。
白トリュフと大トロ。
ビジュアルも味もインパクト大。あからさまなザ・高級食材の組み合わせに正直驚いてしまったのですが、これはほんの序の口でした。
さすがすばらしいトロ。でもこの大量の白トリュフとのマッチはあくまでも「+」足し算であり、「×」掛け算にはなっていないなと感じました。
それでも先入観なしで味わおうと決め、この新しい体験を素直に楽しむことに。
上に乗っているのは白キャビア。生まれて初めていただきました。アルビノから取れるために白いのだそう。荒木さん原価を教えてくれましたが、驚きのあまり忘れてしまいました 笑
自家製のポン酢とともに。
なんだか完成されたひとつのお料理みたいです。
もはや説明不要かと思いますが、マグロの脂の美味しいこと。口の中でとろけていきながら、ちゃんと香り高い余韻を残していきます。
そしてこの辺りで気づくのですが、本当に素晴らしいのはネタではなくシャリなんです。なんだか酢が主張するなと思っていたのですが、これだけ濃厚とろける系のネタが続くと、この酢の酸味が非常に心地よいのです。そして口の中での米のほどけかた。さすがです。
青魚も例外なく脂がのってます。
白キャビア×イカ。ステキな組み合わせでした。
しめさば。現地のマッケルを使っています。
サーモン×黒キャビア。
このへんまでくると、だんだん舌が濃厚×濃厚に慣れてきます。
づけマグロ×黒トリュフ。
高級食材の多様はコースを通して続くわけですが、どれもクオリティの高すぎる実験的マッチのため、「こんな組み合わせでこんな風になるのね!」というあたらしい発見はありつつ、心のどこかで 高級食材×高級食材の必然性に「?」は残りました。
安定のイクラ。
全ての疑問を吹き飛ばす、圧巻の炙り大トロ。
そしてお皿の美しさにしばし目を奪われる。
荒木さんが手渡ししてくれる巻物。
特製の卵焼きでシメです。
ここでもまた美しいお皿にうっとり。
この夜、日本人客は私たち2人だけだったため、コース終了後にしばし荒木さんとお話をすることができました。
この日実はコース開始から15分遅刻してきたお客様がいて、その人たちを入れるかどうかで荒木さんだいぶもめていたのです。そのせいもあってか、やや興奮した口調でロンドンでの苦労
やりがいについて語ってくれました。
客単価がこれだけ高く、人数が限られているため、キャンセルや遅刻はこのお店にとって大打撃です。オープン以来、無断キャンセルやいたずらな席確保に悩まされることも少なくなかったそう。
£300払ってサービスを受けるリッチなお客様たちは、店が客に厳しいルールを強いることを受け入れられず、荒木さんと衝突することも。
そんな中で、「自分がやっていることはなんなんだ」「このやりかたは本当に受け入れられるんだろうか」と葛藤しながら、それでも自分の信じる最高の鮨を提供するために、現在のルールを確立したとのこと。
「これであっているのかなんて、自分にもわからない。前を歩いている人がいないから。でも自分の後ろを歩く人たちのために、今は前に進んでいくしかない」と荒木さん。
銀座というステータスを棄て、新たな闘いの場所にロンドンを選んだ理由は、「難しいと止められたから。出すならパリかニューヨークだと言われたけれど、なおさら挑戦したかった」。
自分のなかのモチベーションを維持していくために必要な変化だった、とのこと。
「これでいいだなんて一度も思ったことはない、自分はまだまだなんです。どこまでいけるかもわからない。だけど言葉も違う、文化も違う
全くの別世界で、自分の鮨に感動してくれる人たちに出会える。それが本当に嬉しいですね。苦しいけど、楽しいですよ」
目をキラキラさせながらそんな風に語ってくれた荒木さん。
最後は奥様と2人、見えなくなるまで店の外に立って送ってくれました。
個人的な感想としては、お鮨そのものは「金持ちのための鮨」という印象が強かったです。キャビア、トリュフ、金箔の多用は、たしかにゴージャスでインパクトはありますが、本当に荒木さんの鮨の美味しさを活かしているのかどうか。流れの中でもっと箸休め的な要素があって欲しかったし、全体のバランスを考えるとやはり「脂、脂、脂」が強かった気がします。
けれど価格設定のためか、客層はリッチな中国人やイギリス人などがほとんどで、日本人は少数派なようでした。
メインの客層を考えたら、「純日本の鮨」に固執する必要なんかどこにもないわけで、彼らの期待している「高級鮨」が正解なのかもしれません。
きっと荒木さんは新しい土地で得たミシュラン2つ星の重圧にも耐えながら、「ロンドンで出す、自分の最高の鮨」をいまもなお模索しているのだと思います。
彼が自ら語っていたように、荒木さんの鮨はまだまだ進化の途中。1年後、3年後、どんな風に変わっていくのか、再訪が楽しみなお店です。
荒木さん、ごちそうさまでした。
ココロ✖️グルメ 心理士の食べ歩き日記
美味しい、だけじゃ満足できない。わがまま食いしん坊のアラサー臨床心理士が、世界中の美味しいものを求めて食べ歩くブログ。東京・ロンドン中心です。
0コメント